だいぶ前の話になるのだけれど、子供の通う学校で夏休みに入る直前に、廃棄物置き場にこんな物が置いてあったそう。
岩崎通信機株式会社(通称「岩通」)の100MHzアナログ・オシロスコープ「SS-7610」である。
この機種は1993年に販売が終了しており、メーカによる保守修理も事実上終了している。要するに「メーカ修理は不可能」だから、「故障したから廃棄した」と考えられる。「それにしても、エライもんを拾ってきたな...(^^;)...(--;)。」
ケーブル類は一切無いので、とりあえず手元にあるケーブル類を使って電源を入れてみたら、電源は入るけれど画面には何も表示されない。しかも、本体後ろ側にある冷却ファンも回らないし、何やら嫌な臭いがしてくる。「あ、こりゃ電解コンデンサが液漏れしたな」と直ぐ判った。直ぐに電源を切って配線を全部外し、電源を入れた状態で放置しておく。
# ブラウン管には高圧が掛かる為、完全放電しないと触れないのよ。
数日経ってから、まずは筐体を外してみる。本体上側はロジックICが沢山載った基板がある。
リードアウト(数値直読)機能か何かの回路だろう。
# 後に、英文サービスマニュアルで垂直同期に関する回路と判明。
底面は4ch分の入力回路基板がある。
漏れた電解液の臭いが強く、一寸顔を背けたくなるほどだ。
この時は色んな物を同時進行で修理していた為「落ち着いてからじっくり修理に取り掛かろう」ということになり、そのまま放置してあった。
専用部品だらけのデジタル・オシロスコープと違って、アナログ・オシロスコープは部品さえ入手できれば大抵は修理できるし、帯域が100MHzの機種は当時非常に高価だったので、直す価値は十分ある。ただし、調整する部分が非常に多いので、回路図や整備マニュアルが無いと修理は出来ても正常な動作は望めない。
ネット上を探したら、有難いことに英語版のサービスマニュアルがあり、回路図も載っている。ダウンロードしてざっと目を通しておいた。
今は在宅勤務のような状態なのだが収入が乏しく、それなのに何故かやらなきゃならん事が色々あって、修理に充てる時間は決して多くない。抱え込んでいた修理の大半を終えたら既に11月、「うわぁ、こんなに時間が経っちゃった!そろそろオシロスコープを修理しなきゃ。」改めて分解に取り掛かる。
内部はアルミ板のフレームに複数の基板を固定する形になっている。
基板の間には沢山の配線が跨っているので、分解には時間が掛かる。
液漏れを起こすような電解コンデンサは電源部に集中しているのだけれど、電源の基板からあちこちに配線が伸びていて、しかも分解しないとその線を外せない所が多い。まずは一番上にあって簡単な入力部の基板から外すと、コネクタは漏れた液でベトベト。
となると、受け側も当然ベトベトだ。
入力基板には、目視では不具合を起こしているような箇所は見当たらない。
この基板には太い配線がハンダ付けされいるので、そのままでは取り外せない。
個々ハンダを吸い取って基板を外す。
これで外せた。
基板上のコンデンサを見ると茶色に変色した電解液が付着している。
ここが漏れている訳ではなく、流れてきた液が付いただけのようだ。
入力基板の下はCPUの載った基板がある。
操作部がデジタル化されているので、その辺を制御する為だろう。その基板の一番奥まった所へ、電源基板からの配線が来ている。
こちらも電解液でベトベトだ。
下から2番目の位置にある基板だが、毛細管現象で配線を伝って電解液が入ったと考えられる。
ブラウン管の横にあるメモリー基板にはリチウム電池が取り付けられている。
この機種に限らず、ハンダ付けされたリチウム電池が劣化して電解液をまき散らす事が多いのだが、幸い電圧がゼロになっているだけで液漏れはしていなかった。
このまま放置するとトラブルの元になりかねないので、電池は外しておく。
電源の配線は本体背面にあるメインアンプ部にも繋がっている。
更に、上から2番目の基板にも繋がっているので、1番上の基板も外す。
一番奥に電源からの配線がある。
これで電源部が筐体から少し離れるようになる。
ネジを外してアルミフレームから基板を取り出すと、裏側は電解液が流れて焦げたような状態になっている。
特に、電流が多く流れる部分が黒い。
通常の状態で下側になる基板の裏側は、電解液が長時間溜まっていたようで、レジスト層が剥がれかかっている。
外したコンデンサは、画像右の2個を除く全てが液漏れしていた。
漏れた周囲はドロドロだ。
ソケットも電解液で濡れているけれど、電極までには達していなかった。
使われている電解コンデンサは現在あまり使われない容量の物が殆どで地方では入手が難しいので、RSオンラインで揃えて交換した。
電解液まみれのコネクタ部は全てエレクトロニッククリーナーで洗浄したが、完全には取り切れない。高圧回路だとショートの可能性が残るけれど、とりあえずは電源部が動かないと具体的な不具合箇所が分からないので、動作する事を最優先にする。
元通り組み立てて、電源を入れたら注意深く観察する。 ファンが回るようになり、リレーの「カチッ」という動作音がする。以前ほど酷くはないが、相変わらず電解液の臭いが漂う。
本体内蔵の確認用1kHzの方形波を入れてみたら、数秒で画面が表示されるようになった。
時間軸を変えるとそれなりに波形も変わるので、内部の動作は正常らしい。が、フォーカス(ピント)が出鱈目だ。
しばらくして「ジジジジジジジジジジ」という放電しているような変な音がしてくる。「何の音だ?」と電源部を見ると...ゲゲッ、放電して火花が散っているではないか!慌てて電源を切る。
# だから、画像は撮影していません。A(^^;)
とりあえず、動作確認できる状態にはなった。だけど、こりゃぁ梃子摺りそうだな...。
(続く)
この記事へのコメント
middrinn
マイカー通学されてるから持ち帰れたわけですね^_^;
Take-Zee
口をあんぐり開けてただただ驚いて
います!
Rifle
メーカ設計ですから、爆発する事は流石にないですよ。(^^;)
そうそう、車じゃなきゃ運べない重さです。電車やバスじゃ到底無理ですねぇ。(笑)
Take-Zeeさん
計測機器はメーカの保守修理期間がかなり短いので、自力の修理って決して珍しい話ではないんですよ。その代わり、修理する側の技術力を試されちゃいますけど。(滝汗)
ktm
トランジスタ時代になって何が良かったかって、電源電圧が低いので触っても感電しない事だと思っています。
なら、LCDディスプレイのオシロが修理できるかというと、技術力の問題でそれも厳しいですけど。(笑)
Rifle
ブラウン管周辺は2kV前後の高圧回路ばかり、おっかなびっくりで触っています。事前の長時間放電は欠かせませんねー。
LCDならドライバICへ入る信号を辿ればOKですから、ブラウン管よりは楽だと思いますよ。(^^;)
TU
基板の変質した部分はマイナスドライバー等で削って徹底的に除去しないと再発火の原因になります。
Rifle
あっそうか、確かに絶縁力は落ちてますから変質した部分を削らないと危ないですね。気が付いていませんでした。有難う御座います。m(_"_)m